群馬よみうり「ビバ!アミーゴ」1月19日号に院長のコラムが掲載されました。
歯医者さんのコラム5
「お前に治してもらったおかげで飯が食える」
それが病と闘う父が最期にくれた最高の賛辞だったように思う。厳格だった父は、絵画コンクールで賞をもらったときも、弁論大会で優勝したときも、良くやったとほめてくれたことはなかった。病に倒れ闘病する中でも全28本の歯のうち2本のインプラント以外は自分の歯だったおかげで「痩せてしまって入れ歯が合わず飯が食えない」と言う隣のベッドの専有の言葉を尻目に父はいつも病院の食事をおいしそうに食べていた。手術、抗がん剤治療と少しずつ痩せてしまってはいたものの、食べられたおかげで父は最期まで思いがけず元気でいられた。最終的には病に勝てなかったけれども、主治医の先生いわく、本当によく頑張ったらしい。それは「ギリギリまで食えたからだ」と。父の闘病は家族にとって、とても辛い経験でした。
しかし、父が残してくれた言葉は私の歯科医師人生に深い意味をもたらしてくれました。「歯を治す」ということは、ただ痛みを取り機能を回復させるだけではなく、健やかに生きるお手伝いをしているのかな、と。人が生きていく上で最も大切な「食べる」ということ。そんな当たり前のことが、歯が痛い、入れ歯が合わないという理由でかなわないとしたら、それはとても大きな問題です。いつも健やかにいられるために、皆さんの「当たり前」の実現のお手伝いができたら、私は最高に幸せだと改めて感じています。そして、最期まで「食えた」父に、少しは親孝行できたのかなと思わずにいられません。
あい歯科クリニック院長 根岸千恵